2022-11-02
ご来場いただきありがとうございました。
JR田川伊田駅のダイヤが何時何分だから、
隣の駅はその時間の数分前に行けば、
目指した列車に乗れるだろうと、いま
自分が居る場所から最も近い、田川伊田駅の
隣の、無人駅のホームに立つとどうも
様子が違う。電車が来ない。
想定した時刻表が噛み合わない。
地図の上では、ひとつの線で路線は
結ばれているのだけど。
あとからホームに上がってきた小柄なおばあさんに
おそるおそる聞いて、氷解したのだが、
私が立っている駅は平成筑豊鉄道、私鉄である。
下伊田駅と、田川伊田駅(JR)は線路で
繋がっていない。
つまり、いったん改札を出て、あらためて
切符を買わなければならない。
致命的ではないにせよ、この時点で
博多駅への到着時刻がくるうことを知る。
一両編成の列車が来る。おばあさんは
前の方に座り、僕は後ろの方に座る。
僕の乗車区間はひと駅。おばあさんは
どこまでゆくのだろう。
平成筑豊鉄道•田川伊田駅に近づく頃、
おばあさんがこちらをみる。僕も
この方がなんとなしに気がかりになっていた
ので、視線にすぐ気づく。
外に向かって指をさし、あんたの降りる駅は
ここ、ここ、と目配せして伝えてくる。
僕も目で、うなづく。
降り口は前から。照れくさそうに立ち上がって
降車しようと歩いてゆくと、座席に座っている
おばあさんが、すれ違いざまに、
下におりて切符をかったらいいよ、といった
ことをマスクごしに、九州のなまりで
伝えてきたので、僕も、ありがとうございます、
と会釈をして列車をあとにする。
その時の、優しい声と眼差しが、いまでも
印象深く、脳裏に浮かぶ。
これがいわゆる、一期一会というのだろう。
山本作兵衛氏の作品に触れるための、
寄り道のなかでのひとこまである。
思うに人生というものは、刹那刹那の
積み重ねなのだろう。
何もない会場に、作品が並び、
人が集い、会期がおわり、
跡形もなく消えてゆく。そこでも
いくつもの刹那がたちあらわれ、
それらの集積がまた、人生をかたち作ってゆく。
様々な人の手によることで、展示会と
いうものが成立します。
その手の主であるすべての方々に
厚く御礼申し上げます。
それでは皆様、また日本のどこかで
お会いしましょう。